タリバンの復権はなぜ「アメリカの世紀の終焉」なのか?【中田考】凱風館講演(後編) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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タリバンの復権はなぜ「アメリカの世紀の終焉」なのか?【中田考】凱風館講演(後編)

「凱風館」での中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(後編)

1989年2月15日、旧ソ連の最後の分遣隊がアフガニスタンから撤退する様子。

■アフガニスタンの荒廃とタリバンの誕生

 

 アフガニスタンに入ったソ連軍は10年間軍を展開しましたが、1989年に維持できなくて結局撤退し、その直後にソ連自体が崩壊します。

 しかしこの時、親ソ連の傀儡政権は、89年にソ連が撤退した後も92年まで一応存続しました。ソ連撤退後3年間は保ったんです。ところが今回のアメリカの場合は、アメリカ軍が撤退する前に親米政権が潰れてしまいました。今回の親米傀儡政権は、ソ連が作った傀儡政権にも劣っていた、言い換えれば、アメリカの占領行政はソ連の占領行政よりひどかったということです。

 話は戻り、1992年にナジーブッラー政権というソ連の海外政権が潰れて、ムジャーヒディーン(民兵)たちが作ったラッバーニー大統領の政権が生まれます。

 

ラッバーニー師

 

 前編でお話ししたとおり、私はこの時期にはサウジアラビアにおりまして、アラビア語の新聞を毎日読んで追ってアフガニスタン内戦の状況を追っていました。「政権が生まれた」といっても、実際はたくさんの軍閥……日本の戦国大名みたいな連中が、まさに戦国大名のようにお互いに戦いあっていたので全然国内の統一はできていませんでした。

 しかし形の上では一応領域国民国家システムの中で国際的にはラッバーニー政権が承認されて国連に座を有していたのですが、実際のところ大統領と首相が首都カブールを分けあってドンパチやっているような状況でした。

 このどうしようもない状況のなかで、次第に軍閥は匪賊、野盗化していきます。

 アフガニスタンは近代化に立ち遅れていた上に、この時点で10年近く戦争が続いていましたから、工業のような産業が全くありませんでした。これは今でもほぼゼロで、国内には農業があるだけです。産業が一切無いので、電化製品や家具などもすべて周りの国から買ってこないといけません。

 それではそんなところでどうやって生きていくのかというと、軍閥はいたるところに関所をつくり、貧しい農民から税金を取り立てました。東京の感覚だと、池袋と新宿の間、新宿と渋谷の間に関所があり、それぞれで通行料を払わなければならないような状況だったのです。

 それで民衆の状況がどうしようもなくなったので、彼らのために立ち上がったのがタリバン運動でした。反タリバンの人間に言わせると「パキスタンが後ろにいる奴ら」という話もあり、それは事実なんですけれども、本質はそうではありません。本質的には、さまざまな軍閥が匪賊化して街の中に多くの関所を作り移動のたびにお金を取られるような状況だったので、それをなんとかしようと世直しのためにタリバン運動が起こり、タリバン政権が成立したのです。 

 そして1996年にタリバン政権が実現したわけですが、タリバンはまさに風紀委員のような人たちで、すごくうっとおしがられているのも事実です。というのも、まったく腐敗のない厳罰主義だったからです。道に物が落ちていても取ったらタリバンに手首を切り落とされてしまうので誰も取らない。1996年からのタリバン政権はそういう厳罰主義によって治安を回復したのでした。

  

■ムジャーヒディーンとアフガニスタン侵攻

 

 それよりも後々問題になったのは海外からやって来た義勇兵としてのムジャーヒディーンのほうでした。

 アフガニスタンがソ連と戦っていた時、世界中から大勢の義勇兵、ムジャーヒディーンがアフガニスタンを助けにやってきました。その多くはアラブ人で、後にビン・ラディンが有名になります。彼らは当初ソ連と戦っていたわけです。『ランボー3 / 怒りのアフガン』を観ても分かるとおり、当時のアメリカはソ連の敵だったので、敵の敵は味方、ということでアメリカとムジャーヒディーンが共闘してアフガニスタンを応援していました。

 

ビン・ラディン

 

 さて、その後ソ連軍が撤退したわけですが、当然アラブ人であるムジャーヒディーンたちはアメリカの味方をしたかったわけではなく、イスラーム教徒の土地が「外国」、その時はソ連に占領されていたからアフガニスタンを助けただけです。

 アフガニスタンが解決した後、彼らは別のムスリムがいじめられている地域へと戦いの場を移しました。そうすると一番注目されるのはパレスチナになるわけです。

 なぜパレスチナは、アラブ諸国が支援しているにも拘わらずイスラエルみたいな小さな国に負けているのか。それはイスラエルのバックにいるアメリカのせいです。それで「アメリカが一番の敵だ」という話になるわけです。だからアラブのムジャーヒディーンたちは「アメリカと戦おう」となったわけですが、この時点でアフガニスタン国内にムジャーヒディーンが大勢残っておりました。その一人がビン・ラディンです。

 日本にはほとんど情報が伝わってきませんでしたが、この当時各地のアメリカ大使館が襲撃されましたし、それが9.11に結びつきます。9.11に関しては、ペンタゴンへの攻撃は陰謀説のほうが正しいらしいですが、少なくとも世界貿易センタービルのほうはアルカイダが首謀したことは確かです。

 

ワールドトレードセンタービル

 

 歴史上初めて本土を攻撃されて慌てたアメリカは、電光石火でアフガニスタンへの攻撃を開始しました。9.11から一ヶ月ぐらいでアフガニスタンへの侵攻を決めてしまっています。

 しかしアメリカ軍がやった攻撃は空爆だけで、陸軍はアフガニスタンに入りませんでした。これがその後の問題を引き起こしたのです。

 一番いけなかったことは、アメリカ軍の代わりに、陸上の戦闘を北部同盟に任せたことです。というのも、彼らは元々タリバンが創設されるきっかけになった匪賊・野盗化した軍閥なのであって、アメリカはそういう人たちを政権の座に据えたのです。

 ですから、我々のように事情を知っている人間からすると、アメリカの海外政権が破綻するのは最初から分かっていたわけです。しかし何も分かっていないアメリカは、要するに「敵の敵は味方」という考え方で、「タリバンの敵だから自分たちの味方だろう」とやってしまったわけです。アメリカはいつもそうです。

「多様性を重視して民族を適当に配置すれば、それで民主主義になる」というような考えでそういう軍閥たちを迎え入れて作った国が、案の定2001年からの20年間で何兆ドルの支援を全部水泡に帰した、というのが、現在起こっていることなのです。

 確かにアメリカが運営能力のない人たちに任せたのが問題だったのですが、そもそもはアフガニスタンで起こっているはじまりの問題は「アメリカが悪い」という話ではなかったのです。元々は都市と地方の問題、伝統と西洋化の問題があり、結局アフガニスタンの住民は伝統文化のほうを支持したので、こういう状況になった、ということです。

 

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日時:2021年11月6日 (土) 18:00 - 19:30

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イスラーム学の第一人者にして、タリバンと親交が深い中田考先生が講演し解説します。
中田先生の講演後、文筆家の平川克美氏との貴重な対談も予定しております。

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    中田 考

    なかた こう

    イスラーム法学者

    中田考(なかた・こう)
    イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

     

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